徹底サービスにこだわる

ご主人の来本さん。眼鏡がチャームポイントだ。

「一度“花六”の敷居をまたいだお客さんは、決して手ぶらでは帰らせない」――和田商店街唯一のお花屋さん、「フローリスト・花六」。三代目店主の来本喜幸さんのこだわりはそれだ。


 取材で訪問した日、来本さんは店の奥で大きな花束を2つこしらえていた。聞けば、妙法寺にある「無縁さま」のお墓に縁日のたび供える花なのだという。
 江戸の昔から妙法寺とともにある町らしい、歴史を感じさせる光景。
 ――しかしその一方。実は「花六」は、とても「新しい」花屋でもある。


「手ぶらでは帰らせません」

「花六」の新しさ。――その秘密は、手がける仕事の多彩さにある。
 「花六」はただ花を売るだけの花屋ではない。結婚式のブーケから葬儀まで、 はたまた住宅の庭造りや店舗の装飾など、その仕事は実に幅広いのだ。近隣でフラワーアレンジメント教室を開くこともあれば、造園を請け負った庭の「アフ ターサービス」として、スズメバチの駆除をしたというエピソードまである。


 「花六」がこれほど多彩な顔を持つようになった背景には、「一度花六の敷居をまたいだお客さんは、決して手ぶらでは帰らせない」という来本さんのこだわりがある。


 馴染みのお客さんたちが、「花六」に様々な相談をもちかける。
 来本さんは、自らの技術や人脈を駆使し、全力でそのリクエストに応える。そうして奔走するうちに新しいチャンスや人脈が生まれ、「花六」の可能性はどんどん広がってきた。


 お客さんとの二人三脚で変化してきた「花六」は、居間やただの花屋ではない。そこにあるのは、地域に根付いた商店街ならではの、「古くて新しい」花屋のあり方だ。

 

「生きざま」が見える葬儀をもっと身近に

 なかでも、来本さんが新しい取り組みとして力を入れているのが、葬儀のアレンジだ。「花六」では、葬儀屋に代わって、葬儀の手配すべてを行うことができる。
  そこには、顔なじみの花屋が窓口になることで、いままで遠い・難しいイメージだった葬儀を身近に感じてもらいたい、という来本さんの思いがこめられてい る。普通、日常的に葬儀について考えたり、話したりする人は少ない。しかしそうして遠ざけていると、いざというときに画一的な葬儀しかできなくなってしま うのだ。


 しかし来本さんの手がける葬儀は違う。「その人の生きざまを少しでも感じてもらえるような葬儀をしたい」――それが、来本さんのこだわりだ。
 故人や遺族と事前に話し合い、故人の好みやその人らしさを反映させた花を用意する。花だけにとどまらず、お土産を地元の煎餅にしたり、食事に故人の好きだったコロッケを追加したりしたこともあるという。
いずれも、地域の花屋という身近な存在として故人や遺族を良く知り、寄り添ってきたからこそ実現できたことだ。

 

「粋な買い方、してほしいね」

 来本さんのこだわりはもちろん、お店で花を買うときにも発揮される。
 ――いわく、「粋な買い方、してほしいんだよね」。
 「粋」とは、その花が「何のための花か」を大切にするということ。花を買うときには目的と予算を言って、あとは店主にお任せする。もちろん希望の色や花を言ってもいいが、最終的には任せてほしい、という。
 「花屋は職人気質なところがあるからね、任せられると嬉しいんだよ」。

予算わずか1000円、「3歳の息子と会話が弾むような花」という無理難題を言って作っていただいた花束。子供のハート鷲掴みのスパイラルバンブーと季節を代表するトルコキキョウ。お見事。


「ゆりかごから墓場まで」

 来本さんは、花屋の仕事を「ゆりかごから墓場まで」と表現する。
 確かに、生まれたときには出産祝いの花を贈られ、旅立つときには花に囲まれ送られるのが人の常。「花六」は、「商店街のお花屋さん」として、地域の人の人生にそっと寄り添っている。


 孫の入学、娘の結婚式、友人の出産・・・。あなたの人生に何かイベントが起こったら、ぜひ「花六」に足を運んでみてほしい。
――帝釈天のほど近く、緑の鉢植えに埋もれた店の奥。
「手ぶらでは帰らせませんよ」と、来本さんが腕まくりをしてあなたを待っているから。

 

お花屋さんの店先に並んでいるのは、花だけではなかったーー。聞けば出るわ出るわ、多彩なエピソードの数々。お花屋さんのイメージが変わりました。駅ナカとは違う「商店街の花屋」としてのあり方を考え、常に新しいことに挑戦する姿。カッコいいてす。

(2012.9.25 取材のだっち)