「高く安く」仕入れた原料を自家製造  創業80年の老舗

濱海苔店

(取材:ふじね)

海苔を語ると話が止まらない!海苔への愛情が伝わってきます。
「古くなった海苔は佃煮にするのがいいね。鷹の爪を入れると味が締まるよ」とアレンジ術も教えてくれます。

 「15秒で値段が決まるんだよ。いかに高く安く値を入れるかが勝負!」と店主の濱さんは目を細めて笑う。


 海苔を製造販売している濱海苔店の1年は、海苔の入札による仕入から始まる。
 「高く、安く」???・・・不思議な話だ。


美味しい海苔を見極める

 海苔の入札は、千葉県市川市の漁業協同組合で行われる。毎年11月から3月頃まで開催される入札で、1年間の海苔の仕入が決まる。

 海苔は収穫時期によって味が変わる。海の栄養をたっぷり含んだ10月の秋芽の初採りが香り高く一番おいしい。太陽の光も十分に浴びているため濃い赤味を帯びている。初採りの後、15日ほどでまた芽が伸び、2回目、3回目と採取していく。採取するにつれ、海の栄養が少なくなりだんだん味が落ちてくる。
 12月になると、9月に採取し保存しておいた海苔の芽を網に植える。水温が冷たく、じっくり育つため、この冷凍網の初採りも、鮮やかな緑色で甘味がありおいしい。
 
 収穫時期に加え、気象や海の条件により、海苔のできは大きく左右される。店主自らが、色や香り等の品定めをし、本当に美味しい海苔だけを選び抜いている。

入札は真剣勝負

 1回の入札は、わずか15秒で決まる。入札所では、各人がパソコンで値段を入力する。すると、瞬時に一番高い値段を付けた落札業者が電光掲示板に表示される。

 

ネットオークションのように、互いに値をつり上げていく競り売りではなく、海苔の入札は1回勝負。わずか10銭差で落札を逃すことも何度も経験した。


 「悔しくて悔しくて、なんとしても落札したい」と次の入札額がついつい高くなってしまうことも。絶妙な駆け引きと冷静さが必要だ。
 そこで、落札額の最高値を、いかに2位と僅差の値段で入れられるか――。冒頭の「高く安く」が、仕入のポイントだ。

ていねいに和紙でくるまれたのり。味わいの違いが見た目にも現れています。


右が乾燥海苔、左が焼き海苔。焼き工程により鮮やかな緑色に。

店舗横にある海苔を焼く機械。いつでも焼きたての海苔を提供します。

製法は丁寧

漁協で仕入れてきた海苔は、まだ生きた生海苔の状態で水分を多く含んでいる。鮮度が落ちないうちに、「火入れ」という乾燥作業をする。店舗横にある作業場で、機械に入れ4時間ほど乾燥させる。最後に焼きの作業をする。10メートルほどのベルトコンベアーに乗せて焼き上げる。
 2枚を光に透かして見ると、違いは一目瞭然。乾燥のりは、赤茶色だが、焼きのりは、深緑色。焼くと表面にツヤがでて、海苔の香りが引き立つ。
 
 この焼き工程も、昔は家族総出で手作業で焼いていたそう。一枚ずつ七輪にのせ、四隅を順々にひっくり返す。10枚を焼くのに20分もかかったとか。
 濱秀人さんに七輪で焼く手つきを見せてもらった。サッサ、サッサと順々にひっくり返す様子は実に鮮やか!
「今は機械が当たり前だから、手焼きができる人なんていないよ」


品揃えは豊富

 こうして丁寧に加工された海苔が店頭に並ぶ。
 海苔専門店というと、高いものばかり売っているイメージがあったが、贈答用の特選品から、家庭用の手軽なものまで商品の種類もさまざま。家庭向け商品は、お買い得商品が揃っている。

手軽に買えるおにぎりのりは、地元ママの手土産にも評判!


一例を挙げると、
・卓上味付け海苔 全型7.5枚 60枚入 302 円(税込)
・おにぎり海苔  全型4枚  32枚入  126 円(税込)
・半切り焼き海苔  全型5枚  10枚入 157 円(税込)
このほかにも、リーズナブルな商品がたくさんある。

 

 事前予約が必要だが、注文を受けてから焼きあげた、出来たての味と香りいっぱいの海苔を買うこともできる。
「やっぱり焼きたては美味いね!」と濱さんは得意げ。
自家製造している海苔専門店ならではのサービスだ。
 
 まもなく2013年の海苔を左右する、緊張の入札時期を迎える。店主の厳しい目で見極められた美味しい海苔が、店頭に並ぶのが楽しみだ。

海苔の生産から、仕入・加工まで一連の工程を、たっぷり丁寧にお話していただき、海苔への愛情が伝わってきました。何でも親切に教えていただき、こんなお店で買い物したいと思いました。
和田に引っ越してきて間もない私は、近所に自家製造の専門店があることにびっくり!しかも、リーズナブル!!我が家の食卓に海苔が並ぶ機会が、ますます増えそうです。

(2012.11.7 取材 ふじね)